青に透けた肉塊

君は変人に憧れている常識人だった。

小説「盆地」

盆地調えられた口髭をふっくらと繁らせた老爺のボーイが、国浩のテーブルへ恭しく料理を運んできた。化粧板の円形卓に慎重な挙措で皿を揃えて、前歯を全く見せずに必要な説明だけを玲瓏な声で申し上げると、にこりともせず厳粛に厨房へ引き下がっていった。…

小説「風呂」

風呂手のひらを合わせてそっと押すと、ドアはばちんと軽やかに開いて、よろけた私はつま先でステップを踏みながら浴室に入った。だれかがさっきまで使っていたのだろう、タイルを敷き詰めた床には水滴がいっぱい散っていて、私のはだかの足の裏に冷たく吸い…

芸術、とは、まずひき比べないこと。

私は人と話すとき、だいたいうつむいている。それか全く不自然な方をじっと見つめながら、顔だけは表情豊かに話している。目が合わせられない。どういった風にすれば自然体なのか、意識しすぎて逃げてしまいたくて、まともに人の顔を見れない。今、こうやっ…

小説「ホーム」

ホーム右腕が突然じわりと熱さに痛んだ。見るとスーツの袖が湯気立ち黒く、ぼとぼと水滴を落としている。ツンと鼻を刺すにおいはコーヒーだった。阿佐子は立ち止まって後ろを振り向き、コーヒー缶を片手におもての褪めた青年が立ちすくんでいるのを認めた。…

喜ばしたいよ。

芸術はわがままな方がいいなあ。固定観念は、いらない。人類の発展のように忙しく、生まれたての子猫のように自由でいい。君が好きだって書こう。緻密な緑色のカエルの艶やかな光沢のなめらかにしなる脚の筋力を、書こう。大声で叫びたくなるほど辛いと書こ…

小説「そして」

そして 「分けてほしいな」ひとつぶの掠れた言葉は、木戸の下唇をふるわして消えた。透けた日光が幾重にも帯をゆらしていた。美穂が暮らす六畳一間の洋室には、窓にカーテンがかかっていない。衣紋掛けにいっぱいワンピースを吊るして、それでそとから入る色…

全く同じ動作なんてひとつもないんだって。

映像のような文章を、書く。 文字を読んでいるのに、見えているのは一枚一枚の写真。被写体は繊細に、なめらかに動いている。 黒の背景がいい。黒は、何にも余計なことを思わせない。ただジッとして、表面はいつもすべりやすくなっている。 少女を映したい。…

鶏とたまごとビッグバンだったらとりあえずビッグバンが先だね。

人のブログを購読したことも、ブログを書いたこともないから、ブログを辞典で引いた経験も勿論ない。ブログという存在と無縁で生きてきた。私はブログの本当の意味を知らないから、己れをブログマスターだと名乗る人が目の前に現れて、「ブログとは、マヨネ…