青に透けた肉塊

君は変人に憧れている常識人だった。

それでも何不自由はなく。


ここに、青春を大いに失敗した、一人の女が在るとする。その女の失敗とは何か、それは友情、愛、こい、勉学、志しである。つまり、十代の人生、ほとんど全部である。女は、少しロマンチストの気色が幼少の頃よりあった。まだ十歳をこえない齢まで、友人多く、元気で活発で、人や物を大切にする優しい子だった。女は今でこそ文学を人生の主軸にしているが、その優しい子は文学はおろか、本にすら触れたことがなかった。ロマンにおいては、運動会が終わったあとに一人で、少しほろりと涙を流すことがあった。十一歳の時、雨が建物をたたく静かな図書室で、太宰治走れメロスが気になって、手に取った。神保町で叩き売りされているような分厚い古びたワイド本だった。出だしから全く漢字が読めなかったが、ロマンチシズムの感性に稲妻が落ちた。この子どもは、友人より、先生より、母親より、本にあることが絶対だと、何も知らない無垢な直感で、この時以来、信じ込んでしまった。宇宙人の主人公が悲しい運命をたどる小説を読み終えた次の日の朝、クラスメイトの女の子に、自分は実は宇宙人であると耳打ちした。食事は、踏み台で爪先立ちして炊飯器からかき集めたごはんを固めた自作のおにぎりだけを食べた。宇宙人は、人間の食事を好まなかった。また別の日には、と語り出せばこの子ども、キリはなく、読み終えた本の数だけ、秩序も理屈も科学も破かれた。本の中の人物たちは皆、宇宙人や旅人であったり、無自覚に恋をしていたり、ハーレムや、一人暮らしや、戦士や、森の中で老後を送っていたりした。それらは皆、体躯だけむくむくと女になっていく子どもの、たった一つの真実であった。やがて女になったかつての子どもは、やはり本を読んで暮らしていた。友人や家族からは、無論、呆れられ遠ざけられていた。悲しいことに、女に自覚はなかった。そしてついに、法をも破った。なぜなら堆く読み終えられた小説の人物たちは誰もが、金を持ち享楽に耽り遊蕩して人生を謳歌していたのだから。

無知でもの優しい若年の子どもに、文学を読ませてはならない。父と母である人は、自分の娘や息子が、少しロマンチストの傾向があると思ったら、文学を遠ざけたほうがいいと、失敗した女を叫ばせて、擱筆する。


(929字)