青に透けた肉塊

君は変人に憧れている常識人だった。

青に透けた肉塊

美しい小説を書きたい。しぼりたての牛乳を注いだ女の身体、すりたての墨汁を流したショートカットの髪、柔らかな草、さらさらと指の間から落ちる新湯、窓辺で午睡する老猫……。音も匂いも風もない、過ぎ去ってゆく一瞬を描いた、この世のどこにもない美しい小説を書きたいと、心を病んでから、幾日が過ぎたろうか。

語りたいことはたくさんある。時勢と現代について、自分の成長と堕落、将来への不安、希望、野望。だが一切を隠すのが美徳というものである。人間は唯一自分の苦しみや望みを理解することができるが、また唯一美しく在ることができる生き物である。私は後者を取りたいと願っている。

烏兎匆匆の21年、否、曠日弥久の半生を過ごし、鏡の自分は青写真とずいぶん違う容貌になってしまった。その顔を上げると、知らない道が見えている。鈍い神経なので違和感なく生きているが、時たまこうして言語化できない予感を抱く。

美しい小説を書きたい。まだ、忘れていない。