青に透けた肉塊

君は変人に憧れている常識人だった。

告白

**様


 啓蟄が過ぎ、日に日に暖かくなっています。近所の桃はもう満開で、若葉を伸ばしている枝もあります。

 窓外から見える桜の木はまだ咲いていないでしょうが、きっともう直ぐです。けれどもあなたは、今は、あすこにいない。そう思われます。

 あなたと出会ってから、四年が経過しました。本当に、経過という表現が妥当で、私の心に積もったものはほとんど何もありません。世界情勢も、ニウスも、生死も、風のようにすり抜けてゆきます。

 あなたの事は、カレンダーをめくるごとにひとつひとつ忘れて、けれども、名前とお顔は、鮮明に覚えています。だいたいの時間は考えていないけれど、一日のうち一回、何かの拍子に思い出します。それをたとえるならば、背後から呼びかけられた時の、ハッとするような感覚で、胸がドキドキして、刹那、息を忘れてしまいます。

 私はこのように、自分が受けてきた感覚をしっかり記憶しながら、またそれを大切にしながら、これまでの人生を送ってきました。

 畢竟あの時と同じように、自分のことばかり考え、痛みや悲しみ、辛さ、苦しさを表面に出した我欲を掲げて、呉下の阿蒙さながら生きて参りました。私は、人の皮を被った獣です。

 あなたの人生を毒牙にかけたこと、昨日の出来事のように、ハッキリと憶えています。この先も、永遠に忘れません。

 あなたがもし、私という惨い存在から記憶を離して、どこかでしあわせな人生を送っているとしたら、私にとってそれ以上の幸福はありません。この先どんな不幸が私の心身を蝕もうとも、私はそれを受け入れます。

 あなたの健康と幸せを、心から願っています。そしてこの願いがあなたの元へ届かないように、ただ、霧消するようにと思います。